介護を行う家族が抱えるストレスについて
要介護者への過保護と過度の期待による家族のストレス
高齢者や障害者で介護や援助を要する身内がいる家族は、要介護者本人が抱く「障害を受け入れるまでの心理的過程」と同じプロセスで、目の前の現状を受け入れていくことになります。
自分の両親や自分の配偶者を介護する家族の場合、最初の内は、「自分にできることは精一杯してやりたい」という気持ちに駆られ、どうしても過保護ぎみな介護をしてしまいがちになりますが、それが続くと、本人も家族に頼りきりになり依存心を助長させてしまうことに繋がっていきます。
また逆に、障害を抱えながら生活することの理解不足や、自立させたいという責任感から、要介護者本人に過剰な努力を求めてしまい、回復しない場合は希望と現実とのギャップに焦りや苛立ちを覚え、その結果、本人を精神的に追い込み苦しめることになる場合もあります。
家族介護を行う場合は、要介護者への過保護と過度に期待するという心境を克服できるように努力することが重要でます。
認知症介護を行う家族の辛い心情
高齢者の認知症は一気に進むのではなく、徐々に進行していきます。
認知症は部分的に物忘れをするなど、緩やかに変化していくので、家族が認知症だということをはっきりと感じ取るまでには、相当の時間を要します。
また、介護者が苦しみや辛さを訴えても同居している他の家族にすら理解されない事もあります。
親族などからは「あんな介護では本人(要介護者)が気の毒」というような無責任で辛辣な意見を浴びせられることもあります。
その結果、本人の自立心を引き出し自活できるようにと懸命に努力し介護を行っている介護者が、心身共に追い詰められるというケースも実際に起こっています。
介護に伴う様々な家族のストレスとは
今まで仲の良かった家族でも、介護を要する者がいた場合は、下記に示すような様々なストレスを抱え込み家族関係が悪化してしまうことさえあります。
1. 核家族のストレス
家族の人数が多ければ、役割分担して介護を行えますが、最近多い核家族、いわゆる少人数の家族構成の家庭では、家族の誰か一人に介護が集中し、肉体的な疲労や精神的なストレスが蓄積し、心身の不調や家族間の不協和音で共倒れになってしまうこともあります。
2. 共働きのストレス
介護を要する家族が家庭内にいる場合、共働きでも妻が介護を行うケースが多くあります。
この場合、仕事を辞めれば収入が無くなり、社会参加や友人知人との付き合いもほとんど出来なくなります。
一方、仕事を辞めずに働き続けている場合、家事や子育てにプラスして介護も担うことになり、心身共に必要以上のストレスを抱え込むことになります。
3. 性差によるストレス
介護などは妻や嫁など女性がするものという考え方が今も強く残っており、介護負担は女性に大きくのしかかるケースが多くあります。
また、結婚して嫁いだ場合は、自分の親を介護するにも、夫側の両親に気を使いながら介護を行うことになりがちでストレスを抱えることも少なくありません。
4. 老老介護のストレス
核家族化が進み超高齢社会の現在では、介護する側される側、共に高齢であることが多く、高齢者が家族介護を担う場合、まず身体面での疲労が大きく体調を悪化してしまうことがあります。
老老介護の場合は、介護されている者と介護している者との過去の人間関係が、介護の取り組み方の良し悪しに大きく影響します。
例えば人間関係が良くなかった夫や姑の世話をすることになった場合、精神的に大きな疲労や負担を抱え込むことになり心情的には辛いものです。
介護を行う家族とのコミュニケーションについて
家族でも介護は必要な援助のみ行うことが基本
家族であっても介護をする場合は、本人に必要なサポートだけを行うという自立支援の基本は変わりません。
家族でも自立して生活できるようになる必要があり、結局本人の為になるのです。
本人の心身の状態をしっかりと認識して、自立を促すには家族としてどうサポートすればいいのか、何が必要なのかを、冷静に考えることが大切です。
かと言って、全てを把握するということではなく、効果的にサポートするために必要な情報を得るだけで十分で、神経質になって悩む必要はありません。
家族介護者を援助するには現在までの経過を把握する
介護保険制度に基づき介護職がサービス提供する場合は、サービス開始前にアセスメントを行い利用者に関する各種情報を把握しておくことで、利用者に合ったサービス計画を策定し、適切な援助を行うことが可能になります。
現在起こっている問題は過去の出来事が連鎖して発生していることが多いため、現状の利用者の状態や生活状況だけでなく、現在に至るまでの経過を理解することで、問題を改善又は解消する切っ掛けを見つけ出すことができる場合があります。
ホームヘルパーとしての家族との関わり方
家族介護は、介護する者される者との二人きりの密室状態で行われがちですが、ホームヘルパーは、そんな家庭の雰囲気を和らげ風通しを良くするという大切な役割も担っています。
ホームヘルパーは、次のよう点に注意し援助を行っていきます。
1. 本人ができること、できないことを認識してもらう
家族で介護をしている場合は、可哀そうだと言って何でも過剰に手を出しすぎますが、ホームヘルパーは本人が自分できる事とできない事が何かをハッキリさせ、自分でできる事には手を貸さず、できない事のみ手助けするということを業務という実践を通して体現することができます。
自分でできる行動や行為を徐々に増やしていけるように応援するのが、介護の本来の目的であるということを、本人と家族に認識してもらえるようにします。
2. 他人の介護体験を家族に話してあげる
家族が介護で抱え込んでいる悩みや不安などの辛い気持ちや重圧感を和らげるために、ホームヘルパーは、類似の問題を抱えている他の家族体験などについて、プライバシー保護に十分注意しながら違反しない程度で話してあげることも家族にとっては励みになります。
家族介護に縛られていると、精神状態が内向きになり気持ちも滅入るので、家庭外にも意識を向けることで、ストレスを軽減することのも役立つ場合があります。
3. 家族や親族との橋渡しをする
家族や親戚だからと言って、人間関係が絶対に良いと言う家庭ばかりではありません。
介護などの大きな問題が家庭で起こった場合、身内同士であるからこそ、思いや情が複雑に絡み合い、逆にコミュニケーションを上手に取れないことも少なくありません。
このような時には、ホームヘルパーが介護をしながら仲介役となることで、互いに落ち着いた状態で話し合いを行い協力して援助することができるようになることが多くあります。
4. 本人や家族のよい聞き手となる
介護をしている家族は、ストレスを抱えていることが多く、自分の話をじっくり聞き受けとめてもらえる相手を必要としていることもあります。
その点、ホームヘルパーは、介護について豊富な知識や技能を持ったプロであり、プライベートな話をしても他人にしゃべったりしない守秘義務を十分心得ている専門職種なので、家族は安心して話すことができます。
なので、家族の良い聞き手となり、じっくりと悩みや思いを聞いてあげることで、カタルシス効果も期待でき、役に立つことが出来ます。