介護職員初任者研修の資格を取った後、介護ヘルパーとして仕事に関わる場合、認知症の代表的な中核症状とは、どのような状態なのか基礎知識をしっかりと学んでおくことは業務に有益です。
認知症の代表的な中核症状とは
認知症の高齢者だからといって、物事について何もかも理解できなくなったり、わからなくなったりするということにはなりません。
疾病の悪化と共に引き起こされる中核症状と行動・心理症状(BPSD)を徹底的に理解することによって、日々関わる認知症の方を一段と十分に把握することが可能です。
次に、第一段階として代表的な中核症状について紹介し解説していきます。
記憶障害について
高齢になればどんな人でも記憶が低下するのが普通ですが、各年齢に見合ったもの忘れであれば認知症とは関係なく、万人に起こる身体上の健忘です。
認知症の記憶障害の場合は、明確に病のせいでものを忘れてしまう状況を指します。
下記に示すような3種類の機能が記憶には備わっているのですが、この3つとも認知症の場合、脆弱化していきます。
- 記銘力(見聞きした新たな出来事などを覚えておく機能)
- 保持力(一旦、覚えたもの事を記憶として保持しておく機能)
- 想起力(以前覚え込んだもの事を再度記憶として思い起こす機能)
通常、記憶は現在の出来事から過去に逆戻りして忘失すると考えられます。
認知症の程度が軽ければ直近のもの事や見聞きしたことは忘れますが、昔の経験した事は明確に記憶しています。
介護ヘルパーに買い物で昨日付き添ってもらったデパートの店名は忘れても、自分が昔バリバリ働いていた頃の仕事仲間の名前は、はっきりと覚えているなどというケースは、介護現場ではよくあり珍しい出来事ではありません。
けれども、子供が生まれてすごく感動したなどといった、過去経験したことの中でも、通常では鮮明に覚えているはずの思い出を忘れているのであれば、間違いなく認知症の程度は悪化しているといえます。
見当識障害について
見当識とは、時間と場所を認識する機能を指しますが、この認識する力が衰えた状態を見当識障害(失見当)と呼びます。
遠方まで海外旅行をし時差が大きい場合などは、朝起きした際に、今、昼夜のどちらかピンとこない時がありますが、このような経験は、通常私たちにもよくあることです。
このような場面に遭遇すると、病気を患っていない人でも、急激な環境変化についていけず体内時計のリズムが狂い意識が混乱することがあります。
病である認知症の方の場合は、認知症状が原因で意識や心に混乱をきたし、時差ぼけのように昼夜が区別・認識できない状態に陥りやすくなります。
失語・失行・失認について
失語とは、口の筋肉や唇や舌など、会話する際に使用される身体器官の各機能は正常に動かせる状態でありながら、いざ会話をしようと思っても言葉が出てこない状態を言います。
これは、会話や言語に関する脳機能の部位が正常に働かなくなっているのが原因です。
失認とは、視神経やが眼球そのものには損傷がないのですが、自分の目の前で起きている出来事などを脳自体が認識不能となっている状態をいいます。
目を通じて物を見て認識できるのは、脳の後頭葉の機能が正常に働いているためです。
なので、その個所に変容が発生することで、見ているのにもかかわらず意識では認識できず見えないという状態になります。
失行とは、手足の身体機能は備わっており損傷がないのにもかかわらず、脳の運動野の障害が影響を及ぼして動かせない状態をいいます。
例えば、ズボンを履くことができない、お皿を持ち上げることが困難であるなど、手足が思い通りに動かせない状態です。
計算力の低下について
認知症高齢者などは、認知症状の最初の頃から特に数字がらみの計算能力などの衰えが際立ちます。
これ以外の症状が顕在化していないケースでも、計算がらみの内容については常態的に心や意識に混乱が発生している場合も多くありますので、初期症状を見極めるには重要な判断材料になります。
例えば、スーパーで数百円程度の物を買っても、常に一万円札や千円札しか出さない状況を見かけた時は、計算力が衰え心の負担になっていることがあるため、介護士はしっかりと側で見守りをする必要があります。
判断力の低下について
認知症の方は、記憶力や見当識が衰えていくにともない、物事に対する判断力が徐々に衰えていく傾向が見受けられます。
健常者でも急に何か判断する必要性に迫られた場合、頭が真っ白になり、うろたえたという苦い体験をした人も少なくないはずですが、特に認知症の場合は、一般的なレベルよりも判断力が大きく低下する状態に陥ります。