家族中心の介護から社会全体による介護へ移り変わった社会背景
ここでは、介護保険制度が施行されるようになった当時の時代背景と流れについて振り返ってみたいと思います。
長期化・重度化する高齢者の介護
老後の生活を送るほとんどの高齢者が、生まれ育った自宅で子や孫など家族と一緒にのんびりと暮らしたいと考えています。
このような考え方は、誰もが抱く自然な欲求でが、現実の老後の生活とは大きなズレがあります。
高齢になってから介護を受ける場合は、症状が重篤になる人が多く、要介護期間が長期化するケースが大半です。
ですから、介護の知識や技術を身に付けていない家族などだけでは難しい状況になっています。
厚生労働省のデータでも、寝たきり状態にある人の内、3年以上に渡る人は全体の50%強を占め、1年以上に渡る人は全体の75%にもなっています。
また、65歳以上の高齢で死亡した人の寝たきり状態での期間は、平均で9ヶ月程度と報告されています。
介護者は女性が多く負担が重い
家庭内で高齢者介護を行う場合、家族一人だけで全責任を負ってできるほど簡単なものではありません。
しかし、今まで高齢者介護というと、多くの場合具体的にいうと、自分の妻や娘、息子の嫁などの女性がその役割を担ってきた歴史があります。
実際、寝たきり状態にある高齢者介護を行っているのは8割以上が女性で、割合は嫁が一番、妻が二番の順になっていることが厚生労働省の国民生活基礎調査のデータでも公表されています。
現在、法的に家制度は存在しませんが、長年続いてきた慣習から今も意識の中でその影響が色濃く残っており、介護は女性がするものという目に見えない圧力があるため、介護に苦闘する女性が多く存在したのが事実です。
特に戦前の女性は家制度の影響から辛抱強く家族介護に取り組んできたこともその一因となっていまいた。
介護人材が大きく不足
介護保険法が施行される前は、家族が高齢になった両親などの身内を介護するということが社会通念上の常識として認識されていました。
実際家族介護が成り立っていた理由の一つには、当時出生率も高く、2015年以降現在のような深刻な少子高齢化社会ではなかったことが挙げられます。
しかし、年代が進むに連れて女性などの生活力も向上し、それと共に婚期が男女とも大幅に遅くなっていきました。
また、将来の生活不安も重なって現在の生活を維持するために、より出生率が低下し子供の人数が少ない家庭が多く見られるようになり、夫婦と未婚の子供で構成された核家族化が進んでいきました。
このことから、家族だけに介護を全てゆだねることは現実的に無理が生じてきたわけです。
高齢化社会が日本全国で年々急ピッチで進展していくと同時に、高齢による虚弱体質、身体機能の衰え、寝たきり状態などの要介護者が急増するばかりですが、それらの高齢者を助けるための介護の担い手が大きく不足している状況が長年続いています。
介護の担い手や専門の介護人材が大きく不足している理由には、次のようなことが考えられます。
- 夫婦と未婚の子供という核家族化が進み孤独老人など高齢者の独り暮らしや高齢者夫婦だけの家庭が増加傾向にあり、家族1世帯の中に介護できる余裕そのものがないことです。
- 男女平等など雇用環境が改善され、昔と違い多くの世帯で働く女性が増加した結果、家庭で介護を担える立場であった専業主婦より共働き家庭が多くなったこともその一因です。
また上述した通り、家族といっても介護技術は未熟な素人なので、重篤化・長期化している高齢者介護を行うことは実際無理が生じてきています。
家族の誰かに介護を押し付けたような状態が続くと、次のような悲惨な結果を招くことがあます。
- 家族である介護者が心身ともに介護で疲弊し病気になる。
- 介護負担をどうするかでもめ事が起こり家族関係が悪化する。
- 介護に追い詰められ高齢者虐待や介護放棄が起こる。
このように、身内だからといって介護素人である家族個人に任せきりにすると心身共に大きな負担がかかりその結果、家族関係が崩壊しばらばらになってしまうことも少なくありません。
これでは何のための介護なのかわからなくなってしまいます。
さらに、身内の介護を家族個人のみに任せてしまうと、生活を支えるために働いている多くの家族が退職や休職に追い込まれ生計が成り立たなくなり、介護を受けている当事者だけでなく、社会的にも税収が減少し、個人地域とも経済的に大きな痛手となってしまいます。
このような時代の流れから、介護というものは、家族個人に任せきりにするものではなく、社会全体で対応していくべき社会的に重要な課題として認識され、明確な仕組みの元で介護を担えるように介護保険制度が制定され、介護サービスが行われるようになりました。