介護職員初任者研修の修了後、介護施設などで勤務する場合、認知症ともの忘れの違いや特徴などについて認識しておくことが大切です。
認知症の場合の忘れ方の特徴
少し前に体験したことでも体験そのものを全て忘れてしまう
通常、健康体である私たちは、過去に行動したり会話をしたり体験したことに対して、もの忘れをすることがあるのが普通です。
この場合のもの忘れは体験したことのある一部分を忘れてしまうという程度のものです。
しかし、認知症を発症している高齢者などの場合にみられるもの忘れは、自分が体験したシチュエーション全部を忘れてしまうのが大きな特徴です。
この状態を「自分自身が経験・経験した出来事に関わる記憶」いわゆるエピソード記憶とも呼ばれますが、この記憶の障害が起こるというものです。
具体例を挙げると、養護施設などで夕食を摂った際、健康な方であれば、おかずの種類や同じ食堂フロアにいた入居者の名前まではわからないが、食べたということは覚えているというのが普通です。
ところが、夕食を摂ったという体験・状態そのものを一から十まで全部を忘れてしまうのが認知症の方の場合の大きな特徴です。
認知症ではない方のもの忘れは部分的であって、過去の体験をもとに現在の体験があり、さらに未来へと発展していきますので、体験した記憶は1本の線でつながっていきます。
一方、認知症の方の場合は、見聞きした体験そのものを全て忘れてしまうため、過去・現在・未来へと時間軸や体験がつながっていきません。
要するに、認知症の方からすると、常に現在というものだけが点在している感覚になります。
自らの体験記憶がすっぽりと欠落し、まったく連続性がなく点でしか思い出せない状態は、不安定な精神状態を招く原因になり、通常の生活を送る際にも大きな支障や問題が起こる要因につながります。
自分はもの忘れをしたという自覚がないケースが多い
認知症ではない方は、自分はもの忘れをしてしまったということ自体に自覚があるのが普通です。
ところが、認知症の方の場合、自分はもの忘れをしたということを自覚していないケースがかなり多くあります。
この物忘れの有無を自分自身で自覚出来ない場合、これが原因で起こるであろう不都合やトラブルなどを自身で未然に回避したり防止することができません。
また、家族や友人など周囲の援助者からのアドバイスや注意も理解することが困難になります。
実際に認知症介護を行う際に、このことが一番のネックになり、問題が起こったり、介護を難しくしている最大の原因と言えます。
最後に認知症の方のもの忘れと健康な方のもの忘れとの違いを簡潔にまとめると、
健康な方の場合、体験したことは部分的に忘れるだけなので、体験した全体的な記憶を元に、部分的にもの忘れしている内容を探り出し思い出すことが可能です。
認知症の方の場合、過去に体験したエピソード全体を忘れてしまうため、全く思い出すことができず社会生活に大きな支障が発生することになります。