会話において聞くことと聴くことの違いは何か
会話において「聞く」と「聴く」という2種類の言葉がありますが、一見するとどちらも介護士が利用者の話に耳を傾けている様子が頭に浮かんでくると思います。
しかし、実際の意味は全く異なっており、聞く場合は、表面的に利用者の言葉を聞いて単に意味を理解しているだけですが、聴くの場合は、利用者の言葉の背後にある本心や感情まで読み取り耳を傾けて聞き入れる能動的な状態になっています。
介護士が利用者の話をしっかりと聴くということは、利用者と深く関わり信頼されることができる切っ掛けに繋がっていきます。
元々聴くということは、相手の話に先入観や自分勝手な批判的な考え方を持たずに真っ白な心で向き合い、一言一句をしっかりと聞き入れる状態を言います。
心理学では、傾聴というこの聴く技能についての講座もあるくらいで、対人援助を行う際の基本的な姿勢や態度などを習得していきます。
他人が話す内容は人それぞれですが、じっくり聴くことで話から次のような情報を読みとることができます。
- 経験:話し手が過去に見たり聞いたりしてきたこと
- 行動:話し手が行ったこと
- 感情:話し手が心で感じていること
- 物事に対する見方:話し手の考え方・信条・価値観
傾聴の3つのレベルとは
介護士などが利用者から話しを聴く場合には、次の3つの状態に区分してその程度を考えることができます。
傾聴レベル1
- 介護職:言葉を聞いている。
- 利用者:話している。
傾聴レベル2
- 介護職:関心を持って話しに耳を傾ける。
- 利用者:話しながら介護士の感情を感じ取る。
傾聴レベル3
- 介護職:深く関心を持って話しに耳を傾けることで、しだいに利用者の本心や感情を感じ取り感情移入する。
- 利用者:話したり、沈黙したりする中で、自分のことを理解し、真剣に聴き受け止めてもらっていると感じる。
以上のように利用者に対する介護士の関心度は、レベル3がMAXで十分に関心を向けていますので、利用者も介護士の態度や表情からそれを感じとり、話したり沈黙したりしながらも、自分の言葉をじっくり聴いて理解してくれているということを肌感覚で感じている状態になっています。
この状態になると、介護職には自分の価値観や先入観はなく、利用者の言葉をありのままに受け止め真っすぐな心境で聴き入れ、利用者の出来事を自分のことのように感情移入している自分を感じる状態になっています。
これは、他人の経験や感情と自分の実体験で感じた事が重なり、自分のことのように感じ取り、利用者の苦しさや悔しかった感情を共有している状態で、物理学で言えば共振・共鳴状態にあるとも言えます。
介護職が利用者と接してコミュニケーションをとりながら介護を行う場合において、介護現場でもよく起こるのがこのような利用者との関係性です。
入居者と介護職が情の通った人間味のある交流を行うことで、利用者はしっかり聴いてもらえると感じることができ、介護職も利用者の感情が本当に伝わってくると心から感じれるといった相互理解が深まっていきます。
このような信頼関係があってこそ入居者は自分自身を介護職に委ねることができるようになります。
介護施設で入居者が安心して介護職から介護を受けれるのは、このようなレベル3のような状態によりお互いに深い信頼関係が築けるからです。
さらに、この状態にまで介護職と入居者の関係性が発展すると、話し言葉よりも非言語や沈黙によるコミュニケーションのほうが利用者の本心や考えなどの本質を的確に伝達できるケースも増えてきます。
また、介護職と入居者とが心と心で相互に通じ合うことで、共同性が構築されていきます。
相手に自分の思いを伝達する手段は、非言語や沈黙によるコミュニケーションが7割以上を占めていますが、言葉で理知的に理解できないので、直感的な伝達手段とも言えますが、介護現場では非言語のほうが多くのことが伝わるケースが少なくありません。
世間でも「はっきりした理由はないが、この人の話には、なぜか心に伝わるものがあるとか、本当に言うことに共感できる」と心から感じれる人と出会う体験をすることもあります。
入居者や利用者が、介護職にこのような感情を抱き信頼を寄せれるのは、傾聴により深い関係性を築くことで生まれるものだと言えます。
良い聴き手になるためには
介護職として利用者から信頼を得るには、よき聴き手になることがポイントです。
受容的に利用者の言葉に耳を傾け、話す内容に心から共感することが傾聴の基本ですが、次のようなポイントを押さえてじっくりと入居者の話しを聴くことで、より理解が深まり介護を行う場合にも最適で最良の介護サービスを提供することが可能になります。
- 利用者の話しを聞く場合は、一旦、自分の信条や価値観を離れる
- 社会観・人間観・人生観・宗教観など利用者の価値観に立って話を聞き判断する
- 利用者が語っている体験や物事に、もし自分が直面すればどのように感じるだろうと思いを馳せる。
- 利用者の価値観を前提にして、語られ伝わってくる感情や思いを感じ取り共感する。